谷桃子バレエ団の挑戦を観て思ったこと

ライムライトの仕事部屋
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最近、バレエ界の裏側を老舗バレエ団の「谷桃子バレエ団」のトップ高部尚子さんが語った、谷桃子バレエ団のYouTubeチャンネルが注目を集めています。

僕もこのチャンネルにはとても興味を持っていてフォローしているのですが、そんな谷桃子バレエ団が新しい挑戦として東京タワーで映像とバレエを組み合わせた作品を発表しました。

今日はこの取り組みについて思ったことを書こうと思います。

プロセスエコノミーが抱えるリスク

僕がこのチャンネルに興味を持ったのは、これまで舞台の作品だけを提供していたバレエが、プロの映像マネジメント会社と組んで、作品を発表するまでの過程を、その苦悩や裏事情まで含めて全て公開し、映像を観ている人の共感を集めて応援してもらう、「プロセスエコノミー」を使った集客方法を採用していることです。

バレエ界がこれまで光を当ててこなかった、バレリーナの私生活や懐事情、他の数あるエンターテイメントの中でバレエがどう生き残っていくのか、これを公開することは賛否両論ありました。もちろん、高部さんもそういったリスクは重々承知の上で、覚悟をもってこの挑戦に挑んでいると思います。

実際、高部さんがバレエ業界の裏側を語ったこのコンテンツは非常に注目を集めて、2023年12月1日現在で56万回の再生数を記録しています。

他ジャンルと比べてそれほど大きいとは言えない日本のバレエ村の中にあって、老舗のバレエ団である谷桃子バレエ団がこういった賛否両論を巻き起こすようなチャレンジをしていることは、非常に勇気のいることだと思います。

また、事業継承にいたるプロセスをブログで発信している僕自身もプロセスエコノミーのロジックを採用していますし、まして今回は僕の専門分野である映像とのコラボレーション企画ということで、僕が関心を抱くのもある意味、当然なのかもしれません。

谷桃子チャンネルが話題になることで、8月の「くるみ割人形」は6公演が全席完売となりました。これまでバレエに関心を持っていなかった人たちがこの公演に足を運んだのは、このマーケティング戦略が功を奏した側面があると思います。

一方で、一世一代の大チャレンジで挑んだ今回の東京タワー公演、こちらはチケット完売とはなりませんでした。

Youtubeで3.5万人の登録者数を集め、話題性も高かったこの公演が完売にならなかった理由は何か。仮に完売になったとして、高部さんの目的は達成できたのか。先達の挑戦に敬意を払いつつ、ここをしっかり考えてみようと思います。

僕なりの結論を先に書きます。

目的に対する手段を誤った結果、観客が期待しないものを作り出してしまった。

高部さんはインタビューの中でこう語ります。

「バレエをたくさんの人に知って欲しい。もっと分かりやすい作品作りをしないといけない」

きっと高部さんの中ではバレエが抱える敷居の高さや古臭さを取り払いたいという思いがあって、今回の企画を行なったのだと思います。

しかし、そこで選択した手段は結果として、バレエをより分かりにくいものにしてしまったように思います。批判的なコメントの中には「映像がダサい。踊りとあっていない。」などの意見がありましたが、仮に映像がダサくなくて、踊りにあっている作品だったと仮定してみてください。

それがどんな作品かというと映像の世界観とダンサーの踊りが矛盾なく同居していて、4方を映像で囲まれた特殊空間で上演する必然性が存分に活かされた作品です。

しかしその作品の主役は残念ながらバレエではありません。ダンサーたちはその見事な映像空間の中で有機的に機能するパーツの一つになってしまうのです。

それは、高部さんが目指す「バレエをたくさんの人に知って欲しい。」と言う目的とは合っていません。

逆にダンサーを主役にする映像を考えたとき、映像はせいぜい転換が必要のない背景の一部としてしか機能しません。それが今回の作品です。それはYouTubeでバレエに関心を持った人を旧来のクラシック・バレエのコンサートへ足を運ばせる内容ではなかったし、旧来のクラシック・バレエファンが期待するものでもありませんでした。

まとめ

僕自身が舞台やイベントで映像を上映する仕事をずっとやってきこともあって、今回はこのボタンのかけ違いがとても気になってしまいました。

踊りのプロは映像のプロではありませんし、映像のプロは踊りのプロではないので、この企画に携わられた方達の不足を責める気はありません。

ただ、バレエには公演を成立させるプロデューサー的な役割の人があまりいない、という構造的な問題は指摘しておきたいと思います。

もし、谷桃子バレエ団に高部さんの目指すことを実現するための最適な手段を考え、予算と人を集める人(=プロデューサー)がいれば、そもそも今回のような手段は選択しなかったのではないか、と考えてしまいます。

 


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