熟達論 -心-

ライムライトの仕事部屋
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これまで音声配信ブログで紹介してきた、人が熟達にいたる過程を元オリンピック陸上選手の為末大さんが解説した『熟達論』。

当ブログでも遊、型、観、心、空の熟達のステップを「観」まで紹介しましたが、今日は「」の段階をご紹介します。

中心がわかると冒険ができる

まずは「心」のプロセスのパンチラインを著書の中から引用します。

私たちの中には大きな可能性を秘めた創造性がある。そのすべてが外に表現されているわけではない。その表現を阻害しているのは技能不足だ。だからこの熟達のプロセスで、一つひとつ技能の障壁を取り払ってきた。「心」の段階で、技能を自在に操ることができれば、制限するものは取り払われ、創造性が解放されすべてを表現できる。
為末大(著)「熟達論」より

「心」とは、中心がわかるということです。丸呑みで漠然としたまとまりだった「型」の構造が「観」で見えるようなり、不必要な部分の力が抜け、中心をイメージするだけですべてがうまく連動する状態です。

中心をしっかり掴んでいれば、安心して冒険ができます。何が自分らしいことで何がそうでないかがわかるので、違う流派を試したり、全く違う領域から何かを取り入れたりができるようになります。

上級者がいろんなことを試せるようになるのは、中心がしっかりしているからだったんだね。逆にいうと初心者がいろんなことに手を出すと自分の中心が掴めなくなる危険もあるということだ。

これまで「個性はグループ内の差異」として、人類共通の動きを「型」で学んで来ましたが、「心」の段階に至ると、個性は重要な要素になってきます。なぜなら、無駄を省いた「心」は人それぞれ違っているからです。個別最適化された自然な動きが「らしさ」として現れます。

「諦めること」で個性を活かせる

個性とは差異であり、偏りでもあります。すべての人間には利き手、利き足、優先させる目があり、世界一を争うトップスプリンターもこれは変わりません。これを長所にするか短所にするかは環境との関係によって決まってきます。

為末さんの場合、トップスプリンターの中ではピッチ(足の回転数)が遅い選手でしたが、種目を400メートルハードルに変えると、このピッチが出せない弱点が「ストライド(歩幅)が出せる」という強みに変わりました。

ここで重要なのが「諦める」という感覚です。「諦める」とは自分を卑下することでも、断念することでもありません。等身大の自分の特徴を受け入れることです。自分の描く理想像に対して等身大の自分を受け入れることに最も抵抗するのは自分自身です。しかし、これを受け入れない限り、偏見なく自分の特徴を捉え、個性を活かすことはできません。

為末さんは成功体験からの脱却も重要だと書いているよ。例えば、加齢による身体の変化を自覚せずに、これまで成功していたトレーニングをしてしまうと中心を外してしまうという。

「遊」の重要性

ここまで読んでお気づきの方もいるのではないでしょうか。自分の持つ個性が長所となるか短所になるかは環境との関係で決まるとすれば、新しく何かをはじめる際に、あらかじめ自分の個性を把握しておかないと、身を置く環境を間違ってしまう危険があることを。

これが、熟達にいたるプロセスの最初に「遊」が必要な理由のひとつです。遊びによって、多様な体験が生まれ、その経験を通じて「これはうまくいった」「これはうまくいかなかった」という蓄積ができ、自分の特徴を掴みやすくなるのです。

「もし」の力

「心」の段階では個性を最大限に引き出すために、ある仮定の環境をイメージして、自分の能力を引き出す「もし」の力を使います。

「もし」は「人は環境に合わせようとして自然に動く」と言うことを利用します。

「もし」の力は、人間がその状況下でどう動くかをよく観察し、想像しておくことで発揮できるので、普段から想像力を鍛えて解像度を上げておくことが重要になります。

格闘漫画「範馬刃牙」で想像上のカマキリと戦う刃牙(バキ)。「もし」の力があり過ぎる人(笑)

例えば、ハードル走では「ハードルの上の襖(ふすま)を蹴破るように」とアドバイスすることがあるそうです。この行為を分解すると、「地面を親指の付け根で蹴り、そのまま膝と足首は90度に曲げ横から抜いてきて、足の裏を前方に見せまっすぐ伸ばし、上半身を傾けながら前に出す」ということになりますが、与えられたイメージを正しく描ければ、身体はその環境にあわせて自然に動いてくれます。

まとめ

最後に熟達論から「心」のまとめを引用します。

中心を掴むと、脱力できる範囲が大きくなり、自在になる。それはできることが広がるということだ。自在になって今まで出て来なかったパターンが増え、多様性を生み出し、創造性もまた広がっていく。
為末大(著)「熟達論」より

ところが次の段階「空」になると今までの世界がひっくり返って切り分けていた境目がなくなり、掴んだはずの中心もまた溶け出していくそうです。

「空」の解説は、また別の機会に。

 


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