モダンアートと現代アート -ナラッキー-

ライムライトの図書館
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先週、都内で行われている二つの美術展に行き、昨日のブログでひとつめに行った「キュビズム展」についてご紹介しました。

そして本日はふたつ目の美術展「ナラッキー」についてご紹介します。

いつも土曜日は18時に音声配信を行う予定なのですが、「ナラッキー」の開催期間が明日10月15日までなので、なんとか開催期間中に紹介しようと思い、予定を変更してブログを投稿します。

ナラッキー

そもそもこのナラッキーは大きく3つのグループが主催したアートイベントでして、一つ目のグループが現代アート集団の「Chim↑Pom」。僕とほぼ同年代の日本を代表する現代アート集団です。渋谷にいるドブネズミを剥製にして、ピカチュウのペイントにしてジオラマに配置した「Super Rat」や、広島の原爆ドームの上に「ピカ」という飛行機雲を描いた「ヒロシマの空をぴかっとさせる」、東日本大震災の時に渋谷駅にある岡本太郎の《明日の神話》という作品に福島第1原発の絵を加筆したり、かなりラディカルな活動をしてきた6人の現代アート集団です。

そしてもうひとつのグループが歌舞伎町を中心にホストクラブを運営しているSmappa!グループ。実はこのSmappa!グループの会長の手塚マキさんはチムポムのメンバーであるエリイちゃんの旦那さんで、歌舞伎町商店街振興組合の常任理事でもあります。

手塚マキさんによる「ナラッキー」の紹介記事が非常にわかりやすいので、是非ご一読あれ!

トー横に溜まるのは問題か。歌舞伎町は「奈落」なのか

 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
「白いもの なべて憎んで 生きて来た 僕らのための ゆふぐれが来る」(小佐野彈『無垢な日本』より)陽が沈んで、都合の良いものだけを照らしてくれるネオンに包まれて生きてきた。傍から見れば、歌舞伎町で生きている私達は奈落に落ちていったように見え...

ちなみに現在Chim↑Pomの正式名称は「Chim↑Pom from Smappa!Group」となっています。これはChim↑Pomと仕事をしようと思ったら、ブランド的に水商売との関わりを持ちたくない企業も、かならずSmappa!グループの名前を使わざるを得ない状況にした、彼らの戦略です。

要は浅草キッドの玉袋筋太郎さんみたいな感じ。

さらに、歌舞伎町のど真ん中で2020年まで営業していた王城ビルを所有する大星商事株式会社の取締役である方山堯さんとともに、王城ビルをアートセンターとして再利用する「歌舞伎町アートセンター構想委員会」が立ち上がり、その第一弾として「ナラッキー」が開催されました。

展示と言いましたが、ビルの中で見るものは絵画やインスタレーションなどのモノではなく、ドラッグクイーンやポールダンサー、バーレスク、車椅子ダンサーなどによるパフォーマンス映像が中心です。

これは、歌舞伎町がモノを売る街ではなく、コト、サービスや身体を売ってきた街であることが関係しています。

そして今回の展示のメインは「奈落」です。

もとは歌舞伎の床下にある空間を「奈落」と呼び、そこから役者がせり上がってきたりする舞台装置の一種なのですが、ビルの吹き抜け空間を歌舞伎の床下にある奈落に見立て、そこから上に向けて設置したサーチライトの光が屋上を抜け、さらに歌舞伎町の空を突き抜けるようになっています。

地下には本物の歌舞伎の演目を奈落から録音した音声も流れているよ。そもそも、歌舞伎町の名前の由来は、戦後焼け野原になった新宿を復興する際に、歌舞伎を誘致しようとしたところからはじまったんだ。その目論見は実現しなかったんだけど、今回のイベントで幻の新宿歌舞伎座が現出したんだ。

たぶん、ここまでの話を聞いて、どうやら普通の美術鑑賞とは大分毛色が違いそうだと言うのは感じてもらえたんじゃないでしょうか?いわばこの王城ビルそのものが作品になっていて、僕たちはその作品の内部に入り込むような体験をするのが、「ナラッキー」なのです。

僕はこの王城ビルが一つの生き物みたいに感じて、地下には肛門があって、その上に背骨があって、その周りにさまざまなアーティストたちの作品が臓器のように動いていて、屋上の口から天空にビームを放っている生物みたいなイメージを持ちました。僕たち来場者は血液となってその中を通過していきます。

なぜこのようなイメージを持ったかと言うと、実は10年以上前にアントニ・ガウディのサクラダ・ファミリアを訪れた時に似たような体験をしたんです。

サクラダ・ファミリアって近くで見ると柱の形が理科の教室にある人体模型っぽいんです。人間の表皮をとって、筋繊維とかが見えてるアレです。

サクラダ・ファミリアは教会ですが、「ナラッキー」はもっと生々しい情念が集まったカオティックで猥雑で、清濁合わせ呑んだゴジラです。

王城ビル内部の展示スペース
サクラダ・ファミリアの外観。筋繊維のような柱が伸びている

僕にとってのナラッキー

バレエの歴史 バレエ・リュス編-5-」で、ニジンスキーがそれまでバレエで扱うことがタブー視されていた「性」をテーマにした作品を作り、一大スキャンダルになったことを書きました。

大半のバレエの観客は(あるいは出演者たちも)、そもそもそのようなテーマを期待して劇場に足を運んでいませんし、むしろ目を背けてきました。

ニジンスキーは自分自身が同性愛者というマイノリティに属していたので、真正面からこういったテーマを扱ったのかもしれない。

しかし、それらは存在しないものではなく、実在し、「性」を生業に生活している人たちがいます。諸説ありますが、*柳田國男は儀式や祭りなどの非日常を「ハレ」と呼び、日常を「ケ」と呼びました。そして「ケ」の中から不浄なもの「ケガレ」が生じると考えました。

*民俗学者。「日本人とは何か」という問いの答えを求め、日本列島各地や当時の日本領の外地を調査旅行した。

歌舞伎町は戦前から宿場街で、外から来た人たちが交わる場所でした。そこで毎晩酌み交わされる宴は、はたして「ケガレ」なのでしょうか?それとも「ハレ」なのでしょうか?

東京の閑静な住宅街で育った僕にとって、歌舞伎町が放つエネルギーは強すぎて、長くいると居心地が悪くなってしまいました。浮き彫りになったのは「ナラッキー」の世界から、自分自身までの距離です。

まとめ

「ナラッキー」はいよいよ明日が最終日。スペシャルイベントも行われるようなので、興味をお持ちの方はぜひ足をお運びください。

「ナラッキー」で何が行われているかは書いたけど、「ナラッキー」が何なのか、そこに訪れる意味は何なのかは、うまく説明できていない気がする…。万人にお勧めはしないけど、ご自身の視野を拡張したい人には、刺激的な体験になることは約束できる。

こちらのリンクに「ナラッキー」の詳しい紹介がありますので、興味のある方はご一読ください。

Chim↑Pom from Smappa!Groupが拡張する「奈落」の概念。歌舞伎町・王城ビルで「ナラッキー」の世界へ
1964年に竣工し、名曲喫茶やキャバレー、カラオケ店、居酒屋へと業態が変化し、2020年3月まで続いてきた王城ビル。ここが「Chim↑Pom from Smappa!Group に…

最後にお知らせになりますが、今回の展示には僕の知り合いの芸術家の松田修さんの作品も展示されています。チンポムメンバーのエリイちゃんの口元を映した映像に歌舞伎町の裏話の会話をダブらせたビデオ作品で、来場された方はサーチライトを過ぎて最初に入る部屋で見ることができます。松田さんに関してはまた別の機会に紹介したいと思います。


 


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