つながりの作法と表現

ライムライトの仕事部屋
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貴族の宮廷文化として発展したバレエですが、20世紀に入り一般の方がエクササイズとしてレッスンを受けるようになり、その時代にあわせて進化を続けてきました。

21世紀の次なる課題のひとつは「多様性」なんじゃないかと思っています。そこで昨日に引き続き、僕が興味を持った本をご紹介します。

ご自身が脳性麻痺による電動車椅子ユーザーでありながら、東京大学先端科学技術研究センターで当事者研究をされている熊谷晋一郎さんと、ご本人がアスペルガー症候群を抱えながら同大学で特任研究員をされている綾屋紗月さんによる共著「つながりの作法 同じでもなく違うでもなく」です。

経済格差や地域格差、人種や文化の違いが生み出す差別、年齢差や障害が生み出す差別、差別にも色々ありますが、単一言語を話す人々が暮らす日本ではあまり差別を意識することはないかもしれません。

今日はバレエ教室を運営する上で気をつけたい「差別」について考えてみたいと思います。

ふたつの差別

まず、差別には大きく分けてふたつの種類があります。

  • 切り離し型
    • 言語や人種、生活環境、障害による身体条件の違いなど、自分と違うことに対して「あなたは私と違うのだからあっち行け!」と切り離してしまう差別
  • 同化型
    • 切り離し型と逆に、一見健常者と違いが分からないような障害を抱えた人に「私たちと同じことができないならあっちに行け!」と同化を迫る差別

バレエ教室の場合、一見しただけでは分からない障害を抱えた人が生徒さんとして入ってくるケースの方がありそう。

一般的にそれぞれの差別への対処法は、切り離し型の差別に対しては「違いませんよ、同じですよ」という態度をとり、同化型差別に対しては「同じじゃありません。違って良いんですよ」という態度を取る事です。

依存先を増やすことが自立につながる

熊谷さんが抱える脳性麻痺は寒い時に身体がギュッと緊張するような状態がずっと続いて、筋肉をリラックスした状態にできない、いわば身体が「つながりっぱなし」の状態だそうです。

熊谷さんは、障害者の自立について「依存先を増やすことこそ、障害者の自立につながる」と言っています。「自立」と言うと誰にも頼らないでひとり立ちする、みたいなイメージがありますが、逆なんです。

熊谷さんは子供の頃はお母さんが介護して下さったのですが、一人では生活できない熊谷さんの生殺与奪の権利はお母さんが握っていて、どうしても支配的な関係になってしまったそうです。ところが、成人して複数の介助者ができると、この支配的な関係から解放されて、自由な生き方を選択することができるようになりました。

これは障害のある人だけではなく、誰でも家族、友人、学校、職場、習い事など、依存先を増やした方が自立しやすくなる、と言えるのではないでしょうか?

さらに言うと自然環境やインフラ設備など、人は環境にも依存しているよ。

おいてけぼりをやわらかく包み込む

一方、綾屋さんが抱えるアスペルガー症候群は外界から入ってくる情報(インプット)とそれに対するリアクション(アウトプット)が適切に処理できない、身体が「つながらない」障害を抱えています。

例えば、健常者は電車に友人と乗り込んだ時、友人が話すことと周囲の環境音を聴き分けることができます。ですが、綾屋さんは全ての音が均質に頭に入り込んできてしまいます。また、バスケットボールをドリブルしようとすると、手の反復運動と床からの反響音、ボールの反復運動をうまく結びつけることができず、ドリブルを続けることができません。

やっかいなことは、疾患を周囲が気付かないだけでなく、本人が気がつかず、「なぜ自分は他の人と同じようにできないのだろう」と、自分を責めてしまうことがある点です。

こういった症状が「アスペルガー症候群」であると診断されるまで、綾屋さんは劣等感を抱えて生きてきました。

ここで大切なのは周囲の人々の理解です。このような障害に対する基本姿勢は以下の通りです。

  • 通常の状態
    • 一人で抱え込まず、些細なことでも人に語れる環境
  • 症状が出てしまった場合の対応
    • 無理強いもせず、無視もせず

バレエ教室の場合、こういった問題に担当の教師だけで対応にあたると、今度は担当教師の負担が大きくなってしまうので、教室の管理者や周りの生徒にも理解が必要です。

とはいえ、バレエ教師はこの分野の専門家ではないので、本人よりも先に教師が障害に気がついた場合は、専門医への受診を勧めることも大事。依存先を増やすことはお互いの負担を軽減することにも繋がるよ。

まとめ

熊谷さんは当事者研究を「自分からも他人からもつかみがたい、『自分の性質』を捉える表現を探す行為」と説明しています。

例えば「産後うつ」と言う表現が見つかるまでの女性は、そう言う経験をしても「私がわがままなのかな?」と自分を責めてしまっていたのが、言葉が見つかることで同じ症状を持つ人同士の連帯が生まれ、社会にも理解が進みました。

僕は「自分からも他人からもつかみがたい、『自分の性質』を捉える表現」と言うのは芸術にもあてはまると思います。

発表会で全員の踊りがハーモナイズすることは美しいですが、生徒それぞれの成長に合わせた表現ができるよう、作品をハーモナイズすることもまた美しいのではないでしょうか。

 


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