映画「オッペンハイマー」と「春の祭典」

ライムライトの仕事部屋
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先日、映画「オッペンハイマー」を観てきました。

今年のアカデミー賞を総なめ(7部門受賞)にした作品で、原爆の父、ロバート・オッペンハイマーの半生を描いています。日本以外では高い評価を得ている本作ですが、被爆国の日本でこの映画を上映することへの賛否があったりして、公開から1年を経てようやく上演されるようになった作品です。

個人的には、世界で唯一被爆国の視点をもつ日本人だからこそ見るべき作品だと思いました。オッペンハイマーの視点で原爆開発に関わっていく過程を知ることで、日本人は被害者と加害者、両方の視点から原爆をとらえ、歴史の延長線上にある現代の問題についても考えることができるからです。

そうは言っても原爆という重たいテーマ、3時間に及ぶ上映時間、「難しい」「複雑」と評判のクリストファー・ノーラン監督の新作を見るのはなかなか覚悟がいると思うので、まだご覧になっていない方のために、「オッペンハイマー」が観やすくなる、観たくなるいくつかのポイントをご紹介します。

バレエとの接点

まず、バレエ好きな読者のみなさんにとって興味深いシーンとして、意外かもしれませんが、この作品には歴史を塗り替えた大変有名なバレエ音楽が登場します。それは、イーゴリ・ストラビンスキー作曲の「春の祭典」です。

「春の祭典」と言えば、ディアギレフ率いるバレエ・リュスの天才舞踊家にして振付家のニジンスキーが1913年に発表して、初演時は殴り合いの暴動が起きるほどセンセーショナルだったバレエ作品です。

この音楽が使用されるシーンは、映画の序盤、オッペンハイマーのキャリアの最初期にあたる1920年代後半で、同時代に流行したキュビズムの絵画ピカソの「手を組んだ座る女」も出てきます。

こういったモダニズムの作品を映画に登場させた理由について、いくつか推測することができます。

  • 「春の祭典」は生と死、創造と破壊がテーマの作品であり、原爆開発のイメージと重ねている。
  • 「春の祭典」の音楽は不協和音が特徴的で、戦争の影が忍び寄る不吉な時代背景と、オッペンハイマーの複雑な内面を示している。
  • キュビズムに象徴される、矛盾を孕んだ状態が一枚の絵の中で同居することと、量子力学の世界を重ねている。

*「シュレディンガーの猫」という有名な実験があって、ランダムに毒ガスが出る装置の入った箱の中に猫を入れると、僕たちは箱を開けるまで猫が死んでいるか生きているか分からない。現実では「猫が生きている」状態と「猫が死んでいる状態」が同時に存在することはないけど、量子力学ではこの二つの「重ね合わせ」状態が存在し、例えば電子は実際に観測されるまでは複数の場所に同時に存在することができ、観測された途端に一つに固定されてしまう。

詳しくはこちらの動画がわかりやすいよ。

Pablo Picasso, « Femme assise aux bras croisés », 1937, 81 x 60 cm, Huile sur toile, MP162, Musée national Picasso-Paris CopyrightRMN-Grand Palais (Musée national Picasso-Paris) / Mathieu Rabeau, © Succession Picasso 2020
パブロ・ピカソが1937年に制作した「Femme assise aux bras croisés」は、81 x 60 cmのサイズで、油彩とキャンバスを使用しています。この作品は、パリの国立ピカソ美術館に収蔵されており、作品番号はMP162です。権利はRMN-グラン・パレ(国立ピカソ美術館)/マチュー・ラボーが保有し、ピカソの著作権は「Succession Picasso 2020」によって管理されています。

https://www.museepicassoparis.fr/fr/les-picasso-de-picasso

ご安心ください。ここで紹介した内容が分からなくても、ストーリーを理解する上では問題ありません。しかし、人間に内在する矛盾が作品のテーマとなっていることはこのシーンからも読み取ることができます。

ここからは、複雑だと言われている「オッペンハイマー」をそれほど混乱せずに鑑賞できる方法についてお伝えします。

混乱しないための「オッペンハイマー」鑑賞ガイド

まず、この作品は大きく2つの人物の話に分かれています。

一人目はもちろん「原爆の父」オッペンハイマーです。そして二人目はアメリカ原子力委員会の委員長である、ルイス・ストローズです。ルイス・ストローズはオッペンハイマーを当時アイシュタインも在籍していたプリンストン学術研究所に招き、所長に抜擢した人物であり、戦後は水素爆弾の開発に反対したオッペンハイマーと対立した人物でもあります。

映画の中でオッペンハイマーのストーリーはカラーで、ルイス・ストローズのストーリーは白黒で描かれるので、まずはこの2点をおさえてください。

さらに、この映画には2つの断罪シーンが描かれます。一つは、戦後ソ連との関与を疑われたオッペンハイマーが、原爆開発に関する機密保持許可を保持できるかどうか調査された聴聞会で、もう一つが商務長官に任命されたストロースが、上院で任命承認を得るために受けた公聴会です。

聴聞会は一般公開されないクローズドな環境、公聴会は一般公開される環境という違いはありますが、どちらも取調べにおいて過去を振り返る形でストーリーは進行していきます

僕が聴聞会と公聴会を断罪シーンと表現したのは、オッペンハイマーの聴聞会は、戦前・戦中の原爆開発の罪を問うものとして機能していて、ストローズの公聴会は戦後、水素爆弾の開発を推進したストローズを通じて、戦後の罪を問うものとして機能しているからです。

もう一度整理すると、

1.カラーはオッペンハイマーのパート

2.白黒はストロースのパート

3.オッペンハイマーの聴聞会は戦前・戦中の罪

4.ストロースの公聴会は戦後の罪

この4点を押さえておくだけでだいぶ見やすくなると思う。

ロバート・オッペンハイマー
Department of Energy, Office of Public Affairs – Taken from a Los Alamos publication (Los Alamos: Beginning of an era, 1943-1945, Los Alamos Scientific Laboratory, 1986.)., Attribution, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=63668による
ルイス・ストローズ

まとめ

今年のアカデミー賞は核の恐怖から生まれたゴジラが「ゴジラ-1.0」で視覚効果賞を受賞し、「オッペンハイマー」に対応するような形で紹介されているのを散見しましたが、 個人的に「オッペンハイマー」と対応する邦画は宮崎駿監督作品「風立ちぬ」だと思います。

「風立ちぬ」は日本の戦闘機、零戦を開発した堀越二郎がモデルとなった映画で、宮崎監督は映画のラストシーンを、堀越二郎が死んだ妻と共に煉獄へ向かうか、罪を背負って生きることを選択するラストにするか、最後まで悩んだそうです。

映画「オッペンハイマー」のラストはオッペンハイマーとアインシュタインとの会話で終わります。ここにクリストファー・ノーラン監督が作品に込めたメッセージが集約されていると思います。

皆さんもぜひ、ご覧になった感想を教えてください。


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