PERFECT DAYSがもたらしたパーフェクトな時間

ライムライトの仕事部屋
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先日、しばらくかかりきりだった仕事が午前中に納品できて、ぽっかり午後の時間が空いた日がありました。そこで、前から気になっていたヴィム・ヴェンダース監督の映画「PERFECT DAYS」を見るために、久しぶりに一人で映画館に行きました。

友人や家族を連れたり、配信で映画を観ることはありましたが、一人で映画館に行くのは2年ぶりくらいかもしれません。20代は年間100本は映画を観ていたので、映画館に行かないことが非日常だったのですが、結婚して子供ができて、新型コロナウイルスが蔓延して、いつの間にか映画館に行かないことが日常になってしまいました。

今回、映画の内容もさることながら、改めて映画館で映画を観るということがいかに贅沢なことなのかを改めて実感しました。

ヴィム・ヴェンダース監督

ヴィム・ヴェンダース監督は「パリ・テキサス」「ベルリン・天使の詩」「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」などを手掛けてきたドイツ人のベテラン映画監督で、御歳78歳になります。このブログはバレエ関係の方も多く読まれているので、2009年に亡くなったドイツ人振付家ピナ・バウシュのドキュメンタリー「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」を手掛けた監督、と書いた方がピンと来る方もいるかもしれません。

「PERFECT DAYS」の撮影監督も「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」と同じ人だよ。

僕が考えるヴィム・ヴェンダース監督の特徴は「異邦人の視点」です。前述した「パリ・テキサス」は妻子を捨てて失踪した男がアメリカを横断するロードムービーですし、「ベルリン・天使の詩」は永遠の命を捨てて人間になりたい天使から見たベルリンの街が描かれています。

そんなヴェンダース監督から見た理想の東京ライフが「PERFECT DAYS」です。

東京に住むトイレ清掃員の男の日々を描いたこの作品、日が登る前に起きて歯を磨き、植物に水をあげ、缶コーヒーを買い、仕事場に向かう。トイレを隅々まで綺麗にして、休憩時間は神社でコンビニ飯を食べながら古びた銀塩カメラで木漏れ日を撮影。夜は銭湯に入ってから行きつけのお店で一杯。帰宅して読書をして就寝。この繰り返し。その中で職場の後輩が恋人を連れてきたり、姪っ子が家出をしてきたりと小さな変化が積み重ねられていきます。

また、画面サイズが通常映画で使われる横長のサイズではなく、4:3のスタンダードサイズ(昔のアナログテレビの縦横比)で作られているため視野が狭く、虫眼鏡で小さな昆虫の営みを覗いているような感覚と、構図的な安定感をもたらしています。

こういった東京に住む市井の人々の暮らしを丁寧に描いた作品で思い出されるのが、小津安二郎監督の「東京物語」です。こちらは東京で医者をしている息子夫婦の家に田舎から年老いた両親が訪問する話なのですが、やはり東京で忙しい毎日を過ごす家族の日常を外からの目線で描いており、ヴェンダース監督も小津作品からのインスパイアを度々言及しています。

父、母、息子、娘、嫁、孫と、映画を観る側が歳をとるにつれ、感情移入できるキャラクターが変わり、何度でも見返すことのできる不朽の名作。

二つの作品に共通することは、日々の積み重ねがかけがえのないものであり、今この瞬間を生きていることがいかに貴重であるかという、人生讃歌です。

映画館で映画を観るという行為がもたらす多幸感

この作品の内容もさることながら、一人で映画を鑑賞するという行為が本当に久しぶりで、真っ暗闇、たった一人でヴェンダースの視点を大画面で占有できる贅沢さに酔いしれてしまいました。

この時間だけは誰かから連絡が来ることも子供に呼ばれることもない、自分のためだけの時間。

希望も絶望も含めて「PERFECT DAYS」で描かれる世界は優しく、美しく、映画館を出た後には物語の舞台になった東京が目の前に広がっていました。ヴェンダースの視点を通じて、僕はもう一度東京と、僕自身の暮らしを発見することができたのです。

毎日を忙しく過ごしている人ほど、この静かな映画と過ごす2時間がとても貴重で贅沢なものに感じられると思う。

まとめ

たとえばフランス人の一流シェフが日本料理にインスパイアされて作った料理に、日本人の料理人が作るような正確性を求めるでしょうか?おそらく、期待するのはシェフの感性を通じて調理された料理を味わうことではないでしょうか?

「PERFECT DAYS」もヴィム・ヴェンダースの目から見た東京の暮らしを愛でる作品です。そこに「清掃員の仕事を美化している」とか「実際の日本と違う」とか言うのは野暮というものです。

映画館で観られるうちに東京の映画館で観るのがイチバンお勧めですが、もちろん難しい方もいらっしゃると思うので、そんな方には映像配信が始まったらこの映画をスマホで観るのではなく、家にある一番大きなテレビで、部屋を真っ暗にして一人で鑑賞することをお勧めします!


最後にお知らせです。僕が広報や映像配信でお手伝いしているスタジオアルマ所沢出張公演「風の中の青い馬」が3月29日(金)に所沢まちづくりセンター中央公民館で上演されます。一般の方は2,000円、高校生以下1,000円、そして小学生以下は無料でご覧いただけます。

池袋、新宿から急行で30分ちょっとです。春休みの思い出にぜひ劇場へ足をお運びください。

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【studio ALMA制作担当】
studioalma.meteor@gmail.com
090-8441-4885

 


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