制作年代を追いながら紹介してきた「マイ・衝撃バレエ3選」も、今回でいよいよ最終回です。
今回取り上げるのは、谷川俊太郎の詩「花と画家」の朗読と踊りを組み合わせた作品、「花と画家」。
これまでの2本とは少し違って、
今回は自分自身の実人生と深く結びついた作品についての話になります。
作品の背景
「花と画家」は、詩と踊りをひとつの舞台にする「詩によせる三つの情景」というプログラム、全3作品のうちの1篇として上演されました。3作品はいずれも、詩の朗読と踊りを組み合わせるという同じ形式で貫かれています。
振付、および画家の役は僕の父、執行伸宜。
花の役を演じたのは僕の妻、鷹栖千香です。
公演が行われたのは、今から10年前の2016年2月5日。
僕と妻は、この年の1月に入籍し、10月に挙式を控えていました。
僕はこのプログラムの2作目で映像を使った演出があったため、
当日は映像スタッフとして客席の最後尾からこの舞台を見ていました。
詩のテーマ
谷川俊太郎の「花と画家」は、美や生命の象徴である「花」と、
それを表現しようとする「画家」との対峙を描いた詩です。
この詩には、大きく3つのテーマが流れています。
一つ目は、「見る者」と「見られる存在」の境界です。
一輪の花を前にした画家が、その圧倒的な存在感をキャンバスに捉えようと葛藤する。単に見た目を写し取るのではなく、花が放つ一瞬の生命の輝きに触れようとする、画家の視線そのものが主題になっています。
二つ目は、言葉や絵画を超えた自然のたたずまいです。谷川俊太郎の詩作に一貫してある、表現の限界と、それを超えた世界の豊かさという問い。
画家は描こうとすればするほど、花が持つありのままの美しさに包み込まれていきます。
三つ目は、生と死、そして静寂です。花は美しく咲き誇ると同時に、いずれ枯れていく運命を背負った、生と死の象徴でもあります。画家はその儚くも完璧な存在と向き合うことで、自分自身の存在や命のありようを静かに見つめ直すことになります。
舞台の裏側で起きた出来事
この詩を、踊りによって具現化したとき、何が起きたのか。
その話をする前に、この舞台の背景で起きていた、
ある出来事を説明する必要があります。
じつは本番当日を迎える数日前、
妻は体調を崩し、高熱を出してしまいました。
あまりに直前のことだったため、代役を立てることもできず、
家族・スタッフ全員でこの公演を支えることになり、
熱の下がり切らない身体で、妻は舞台に立ちました。
そこで僕は、思いもよらないことを目にしました。
「儚さと生命力が同時に存在する花」という主題と、
高熱を押して踊る妻の姿が、はからずも重なったのです。
もちろん妻は、万全の体調で舞台に立ちたかったと思います。
それでも、もしかしたら万全の体調では現れなかった、
消え入りそうな花の美しさが、目の前に立ち上がってきたのです。
父は、老いていく画家として、作品を生み出す苦しみと、花への憧れの間で揺れ動く感情を作品に込めていました。そして舞台の外には、これから夫婦としての人生を歩み始めようとしていた僕たちがいる。
僕はそこに、託された者への祈りや希望のようなものも感じました。

矛盾から生まれる「対極主義」
「カルメン組曲」では、バレエというアイデンティティを保ったまま境界線を拡張しようとする試みに、僕は衝撃を受けました。詩の朗読と踊りを組み合わせる「花と画家」もまた、その拡張の系譜にある作品だと思います。
そして「ニジンスキー 神の道化」では、結局自分が惹かれているのは「踊り」そのものではなく、踊りと分かち難くある「人」なのだと気づきました。
「花と画家」は、この2つの気づきが、もっとも近い距離で重なった作品でした。父が振付け、妻が踊り、僕が映像スタッフとして客席の最後尾から見ていた。作品のテーマと、僕たちの人生が、分かちがたく結びついていました。
振り返ってみると、僕がずっと衝撃を受け続けてきたのは、
岡本太郎が言うところの「対極主義」なのかもしれません。
異質なもの同士がぶつかり合い、そこから爆発するように生まれるエネルギー。
「カルメン組曲」で見たのは、踊りという身体表現と、映像表現の衝突でした。「ニジンスキー 神の道化」で見たのは、人としての生々しい葛藤と、芸術家としての意志の衝突でした。そして「花と画家」で見たのは、完璧を目指す姿と、完璧ではあり得ない身体が抱える儚さの衝突でした。
もし何の矛盾もなく、すべてがきれいに調和した踊りがあるとしたら、
それは技術としては究極なのかもしれません。
けれど、正直に言うと、僕はきっとその踊りに退屈してしまうと思います。異質なものがぶつかり合い、そこから何かがまろびでてくる瞬間にしか、
僕の心は動かされないのかもしれません。
なぜ、そう思うのか?
その思いを踏まえて、自分はどんな行動(アクション)を起こすのか?
いつだって最後は、自分自身に問いが返ってきます。
あなたは、どんなことに心を動かされますか?



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