ときどき僕は、高校の職業説明会に呼ばれることがあります。
職業説明会は、高校に色々な職業の専門家や専門学校の先生を招いて、その仕事がどんなものなのか、就職する場合はどういった進路に進めば良いのかなどの講義を行うものです。
僕の場合は映像制作や放送・音響といった分野の説明をすることが多いのですが、来月、ある高校の職業説明会では「エンターテイメントに関する仕事について説明して欲しい」と依頼を受けました。

めちゃめちゃ話す領域が広いな。
学校側が僕に話して欲しい内容は、エンターテイメントにはどんな仕事があって、どうすればその仕事に就くことができるのか、ということだと思います。
ですが、映画監督とアイドルの進路が同じであるはずがありません。
この依頼がきっかけで色々と下調べをはじめたのですが、その一環で行った僕と人工生成AIのChat GPTこと「ジピちゃん」との会話がとても面白かったので、皆さんと共有したいと思います。
はじめは「アートとエンターテイメントの違い」や「芸術とアート」の違いなど、エンターテイメントの定義を確認する会話だったのですが、最終的にはバレエは芸術なのか、それともエンターテイメントなのかを改めて問い直すような内容にまで発展します。
とても長いやり取りなので、何回かに分けてお届けします。
内容もさることながら、人工生成AIとの会話がどのようなものなのかということを含めて、楽しんでいただけると嬉しいです。
AIとのアートとエンタメをめぐる会話

こんばんは。ジピちゃんはアートとエンターテイメントの違いはなんだと思う?ジピちゃんの考えるそれぞれの違いと定義について詳しく教えて。

アート(Art)とエンターテイメント(Entertainment)の違いは、目的、受け手の関わり方、そして創作の自由度に大きく関わってきます。どちらも創造的な表現の一形態ですが、目的やアプローチの違いから、しばしば対照的に語られます。
アート(Art)
定義
アートは、作者の内面的な表現や哲学的な問い、社会的メッセージを含む創造的な活動を指します。しばしば美的価値や独自性が重視され、必ずしも大衆に迎合する必要はありません。
目的
- 自己表現:作者が感じたこと、考えたことを表現する。
- 思索・問いかけ:観る人に考えさせることを目的とする。
- 文化・歴史の記録:社会や時代の姿を反映する。
- 革新性の追求:既存の枠を超えた新しい表現を探求する。
特徴
- 受け手の解釈が自由:意味が明確でないことも多く、観る人の価値観や経験によって異なる受け止め方ができる。
- 商業性を必ずしも追求しない:作品の価値は売上だけでなく、歴史的・文化的な影響力で測られることが多い。
- 必ずしも娯楽ではない:楽しませることを目的としていない場合もある(例:現代アート、前衛的な演劇、実験的な映画など)。
エンターテイメント(Entertainment)
定義
エンターテイメントは、観客を楽しませることを目的とした創作活動やパフォーマンスのことを指します。大衆に向けて作られることが多く、わかりやすいストーリーや魅力的な要素が重視されます。
目的
- 娯楽の提供:観る人を楽しませ、感動や興奮を与える。
- リラックスの手助け:日常のストレスから解放し、気分転換させる。
- 広い層にアピール:多くの人に受け入れられることを前提に作られる。
特徴
- 明確なメッセージが多い:物語の展開やテーマが分かりやすい。
- 商業性が高い:観客を集め、興行的成功を求めることが多い(映画、ミュージカル、コンサートなど)。
- 感情を刺激する要素が多い:笑い、涙、スリルなど、観客の感情を直接動かす工夫がされている。
アートとエンターテイメントの違い
項目 | アート | エンターテイメント |
---|---|---|
目的 | 自己表現、思索の喚起、文化的価値 | 娯楽、リラックス、感情の刺激 |
対象 | 受け手によって解釈が変わる | 多くの人にわかりやすく伝わる |
商業性 | 重要視しない場合も多い | 商業的成功が求められることが多い |
自由度 | 形式や表現の制約が少ない | 大衆受けするフォーマットに沿うことが多い |
例 | 現代アート、実験映画、前衛演劇 | ハリウッド映画、テーマパーク、ミュージカル |

近年では、アートとエンターテイメントが融合するケースも増えています。例えば、映画や舞台でも芸術的な要素が強い作品はアート寄りになり、逆に美術館の展示でも観客を楽しませる仕掛けがあるとエンターテイメント的な側面を持ちます。
例
- バレエ:芸術性を持ちながらも、観客を楽しませる要素が強い。
- クリストファー・ノーランの映画:大衆向けでありながら、哲学的なテーマを含む。
- 現代サーカス(シルク・ドゥ・ソレイユなど):視覚的な芸術性を持ちながら、エンタメ性も高い。
結論
アートは「創造者の視点」から見た表現であり、エンターテイメントは「観客の視点」から見た娯楽と考えることもできます。ただし、現代では両者の境界が曖昧になりつつあり、アートとエンターテイメントが共存する作品も多く生まれています。
どちらが優れているというものではなく、目的に応じて使い分けるべきものだと思います。

じゃあ、ホラーやサスペンスはどう解釈する?これらは娯楽やリラックスをあたえるものではなく、恐怖や不安を与えるものだよ。だからと言ってこれらを一概にアートと定義するのは難しいんじゃないかな。

ホラーやサスペンスは確かに「娯楽」や「リラックス」を与えるジャンルではありません。しかし、それらが「アート」として成立するかどうかは、作品の目的や手法によるところが大きいです。この点を掘り下げながら、ホラーやサスペンスの位置づけを考えてみます。
ホラーやサスペンスの本質
これらのジャンルの根本的な目的は、恐怖や緊張、不安を喚起し、観客の心理に働きかけることです。
- ホラー:超自然的な要素や身体的恐怖(ゴア表現、モンスター、幽霊)を通じて、不安や恐怖を引き起こす。
- サスペンス:主に心理的な緊張感を高め、観客にハラハラさせる。
これらの感情は、一般的な「娯楽=楽しませる」という概念とは異なりますが、観客に強い感情的な体験を提供する点ではエンターテイメントの一種といえます。
ホラーやサスペンスはエンターテイメントか?
一般的には、ホラーやサスペンス映画の多くは エンターテイメントに分類 されます。
その理由は:
- 大衆向けに作られる:多くの人が楽しめるようなストーリー構成や映像表現をとる。
- 商業性が高い:ホラー映画は低予算で制作でき、高い興行収入を狙えるため、エンタメ市場の重要なジャンル。
- 刺激を求める観客の需要に応える:恐怖や緊張は、スリルを楽しむための要素として機能する。
例:
- 『ジェイソン』『エルム街の悪夢』『SAW』など、明確に娯楽志向のホラー。
- 『シャーロック・ホームズ』『羊たちの沈黙』のようなサスペンス・スリラーも、大衆向けの娯楽要素が強い。
ホラーやサスペンスはアートになりうるか?
ホラーやサスペンスが アートとして成立するケース もあります。
その特徴は:
- 表現の実験性:既存の映画的文法を超えた新しい視覚表現や編集技法を取り入れる。
- 深いテーマ性:単なる恐怖ではなく、社会批評や哲学的問いを含む。
- 観客に解釈を委ねる:明確な答えを提示せず、心理的に余韻を残す作り方。
例:
- スタンリー・キューブリック『シャイニング』(1980年)
→ 非線形な編集、迷宮的な構成、空間の不安定さを意図的に作り出す。 - ロマン・ポランスキー『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)
→ 女性の心理的抑圧と社会の不安を描く。 - ジョーダン・ピール『ゲット・アウト』(2017年)
→ アメリカ社会の人種問題をホラーで表現。 - ヒッチコック『めまい』(1958年)
→ 人間の精神世界と幻想の交錯を描いた心理サスペンス。

これらは恐怖や緊張を超えて、視覚芸術や哲学的なテーマ性を持つため、「アート」としても評価 されることが多いです。
ホラーやサスペンスの位置付け
ジャンル | 目的 | 例 |
---|---|---|
商業ホラー・サスペンス(エンタメ寄り) | 観客を楽しませる、スリルを提供 | 『IT』『スクリーム』『ミッション・インポッシブル』 |
アートホラー・サスペンス | 恐怖を通じた芸術的探求、社会批評、表現の実験 | 『シャイニング』『ローズマリーの赤ちゃん』『ゲット・アウト』 |
境界にある作品(両方を兼ねる) | 大衆性と芸術性の両立 | 『セブン』『ジョーカー』『ブラック・スワン』 |
結論
ホラーやサスペンスは、基本的にはエンターテイメントの範疇 にあるものの、特定の作品はアートの要素を持つ こともある、というのが妥当な解釈だと思います。
「恐怖=娯楽ではない」という点が一見矛盾するように見えますが、実際にはホラーやサスペンスのスリルは「感情の刺激を求める楽しみ」として機能します。この点では、絶叫マシンやお化け屋敷と同じように、怖さを「楽しむ」娯楽 だと考えられます。
ただし、より芸術性が高く、社会的なメッセージを含む作品は「アート」としても成立し、ホラーやサスペンスはエンターテイメントとアートの両方を横断するジャンル と言えるでしょう。

ここでもう一度アートとエンターテイメントの違いを整理しよう。
エンターテイメントはどのようなジャンルであれ、作り手が提供する作品を観客が受け取る、観客にとって「受け身」の性質をもっていると言えるんじゃないかな。
一方で、アートは作品にこめられたメッセージを観客がどう受け取るか考える余地があり、むしと観客が主体的に作品を思考することに重きをおいているんじゃないかな。

とてもシンプルで本質的な整理ですね!
確かに、エンターテイメントは「作り手が提供し、観客が受け取る」という 受け身の性質 を持つのに対し、アートは「観客が主体的に解釈し、考えることが求められる」ものだと整理できます。
整理すると
- エンターテイメント:観客に楽しんでもらうために設計されており、受け取り方に大きな差が出にくい。(例:映画のヒーローが悪を倒す→爽快感を得る)
- アート:観る人の経験や価値観によって解釈が変わる余地があり、観客が主体的に思考することを求める。(例:抽象画や難解な映画→意味を考えながら鑑賞する)
この視点でホラーやサスペンスを考えると
- エンターテイメント的ホラー(『スクリーム』『IT』など):驚かせる、緊張させることが目的。観客は「恐怖を楽しむ」という受動的な体験をする。
- アート的ホラー(『シャイニング』『ゲット・アウト』など):観客に「なぜ怖いのか?」「何を意味しているのか?」を考えさせる作りになっており、主体的な解釈が求められる。

つまり、「観客がどう関与するか?」が、アートとエンターテイメントの大きな違い だと言えそうですね。
まとめ
はい、今日はここまで。
今日は「エンターテイメント」が具体的にどのような領域を指すのか、「アート」と比較したジピちゃんとの会話を紹介しました。
いつもよりも文章量が多いですが、これはまだ議論の入り口です。今のところ想定内の回答でしたが、AIとの会話は共通認識をすりあわせて進めるのがオススメです。
次回の予告を少しだけすると、これまで「エンターテイメント」と「アート」の違いについて議論を進めてきましたが、今度はここに「芸術」との比較が入ってきます。
皆さんの「バレエ」に対するイメージはエンターテイメントですか?アートですか?それとも芸術でしょうか?
すぐに役に立つ話ではないけど、表現に関わる人は絶対に押さえておいた方が良いトピックです。
それでは、次回もお楽しみに!!
最後までお読みいただき、有難うございます!
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